シャカイを、つくる。(仮)

僕たちが生きるこの社会をより良いものにするために必要だと思ふことをだらだら考え、提案する。そんなやつです。よろしく、どーぞ。

日本の貧困は「働けるのに働いていない人の問題」だと言えるのか検証してみた

こんちわ!
以前、労働能力や労働意欲の有無といった個人の状態に関わらず貧困は生じるということが歴史的に実証されてきたという話をしました。
cbyy.hatenablog.com

それでは、そうした事象は日本でも確認されるのでしょうか?

 「働かざる者食うべからず」という意見が説得力を持つためには、「働けるのに働いていない」ということを科学的に立証する必要がありますね!今日はその実証を試みてみようと思います。(実証といってもここでは「稼働能力」の意味に関する整理などもしていないし、全ての地域の有効求人倍率などをみているわけではないので、あくまでも一つの視点を提供する……くらいのレベルのものですが)

まず、過去50年の有効求人倍率を見てみましょう。有効求人倍率

有効求人倍率=求人数(企業側の採用予定人員数)÷ 求職者(仕事を探している人)


で計算されるので、有効求人倍率が1を超えていれば、理屈上は仕事を探している(労働能力・意欲がある)人は全員がさしあたりの職にありつけるということになります。

f:id:cbyy:20160722133056p:plain
※縦軸:有効求人倍率 横軸:西暦
厚生労働省 職業安定業務統計 より永井が作成)

 このグラフを見ても明らかなように、日本は過去50年間のうちほとんどの時期において有効求人倍率は1を下回っています。有効求人倍率が1を超えているのは1967年から73年の高度経済成長期、89年から91年にバブル経済期、いざなみ景気の2007年といった好景気の時だけです。

つまり、少なくとも過去50年間のほとんどの時期において、日本は「働く能力があっても職にありつけない人が一定数存在する」国だったということになります。

それでは、有効求人倍率が1を超えている時期は、生活困窮者はいないのでしょうか?近年、「貧困を是正するために経済成長を!」という掛け声がよく聞かれますが、貧困率の推移を見ると、過去50年間相対的貧困率は10%前後で推移していることが分かります。

f:id:cbyy:20160722134045p:plain
※縦軸:貧困率(%) 横軸:西暦
橋本健(2013)『「格差」の戦後史』河出書房新社,227 より永井が作成

高度経済成長の頃に戻れば貧困はなくなると考える人も少なくないのですが、実はこうした考えはデータで支持されません。実際には好景気の時であっても生活困窮者は常に一定数存在していたのです。


これはちょっと不思議な感じがしませんか?全国平均の有効求人倍率が1を超えている時期にも関わらず生活困窮者がいるというのはどういうことなのでしょう?

勿論、生活に困窮する理由としては失業、健康上の問題などでそもそも労働能力がない、など人によって様々なので、貧困とされる10%のうちわけを詳しく見なければ、有効求人倍率貧困率の関係から意味のある説明を導くことはできません。

しかし、「有効求人倍率が1を超えても貧困状態にある人は、労働意欲がないために困窮しているにすぎないか、少なくともそうした人を一定数含んでいる」と仮説的に考えることはそれほど無理のある説明ではないし、実際にそのような理由から貧困是正策として経済成長が謳われている側面があることは否定できません。

そこで、ここからは「有効求人倍率が1を超えても貧困状態にある人は、労働意欲がないために困窮しているにすぎない」という説明が正当制を持ちうるかを検証してみましょう。

こうした説明を導くためには地域別の有効求人倍率についても検証しなければなりません。以下は北海道と沖縄の過去30年の有効求人倍率です。


f:id:cbyy:20160722134932p:plain
図1 北海道の有効求人倍率の推移 - 内閣府


f:id:cbyy:20160722134825p:plain
図2 沖縄の有効求人倍率の推移 - 内閣府



二つのグラフから明らかなように、全国平均で有効求人倍率が1を超えている時期でも、北海道と沖縄の有効求人倍率は低いままです。
つまり、有効求人倍率が全国平均で1を超えているかどうかを見ているだけでは働く条件が保障されているかを検証するには不十分だということです。
それでは、有効求人倍率が1を超えている地域であれば誰でも働きたい人は働けるのでしょうか?

2005年12月から2007年12月という比較的好景気だった東京都の有効求人倍率をみると、全体として(年齢計)は1を大きく上回っていることが分かります。しかし年齢別にみるとどの年齢階層でも1を超えているのは2007年12月だけです

\ 05年12月 06年4月 8月 12月 07年4月 8月 12月
年齢計  1.52 1.61 1.62 1.44 1.41 1.36 1.37
24歳以下 3.51 2.82 1.83 1.68 1.38 1.46 1.45
25~34歳 1.44 1.32 1.98 1.81 1.51 1.56 1.45
35~44歳 1.20 1.22 1.00 1.06 0.98 1.00 1.26
45~54歳 1.20 1.22 1.00 1.06 0.98 1.00 1.26
55歳以上 0.76 0.78 0.81 0.96 0.94 0.93 1.37
55~59歳 0.63 0.67 0.81 0.91 0.87 0.89 1.31
60~64歳 0.71 0.77 0.81 0.98 0.96 0.93 1.36


年齢別有効求人倍率の推移 バックナンバー | 東京労働局
より、永井作成


以上から……
日本の過去50年間において、「労働能力のある人全員が就ける仕事がある」という、「働かざる者食うべからず」という意見が多少でも説得力をもつ前提が成立したことは、極めて限られた時期の限定的な地域を除くとほとんど全くなかったということが分かります。
 よって、「本人の労働能力がどのようなものであれ貧困は社会構造上発生する」という、イギリスの「教訓」は日本にも当てはまるということになりますね!
 「給付を引き締めれば怠惰な貧困者は働くようになり、生活困窮者は減る」なんてことは絶対にないのであり、労働能力に関わらず生活困窮者は社会的に救済すべきだということが分かるかと思います。
 
さて、今日は「働く条件が整っているのか」という視点から最低生活保障の必要性について書きました。しかし、「働く条件が整っていようがいまいが最低生活は無差別平等に保障すべきである」という考えも存在します。
次回はこの点について考えてみたいと思っています!

よろしく、どーぞ。