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シャカイを、つくる。(仮)

僕たちが生きるこの社会をより良いものにするために必要だと思ふことをだらだら考え、提案する。そんなやつです。よろしく、どーぞ。

最低生活を保障する制度は生活保護だけじゃないんだぞ!といいつつ、やっぱし生活保護はめちゃめちゃ大事なんだぞというお話

◎最低生活を保障する制度は生活保護だけじゃない

さて、最低生活を考えるためには現状としてどのような制度が存在するのかを知るところからはじめなければ……ということで、今日は僕たちの最低生活を支える制度とその位置づけに関して簡単に整理しておきます。

前回のエントリで「学校でうけた予防接種とかも最低生活保障の理念が根拠になっている」という話をしましたが、なかには「社会保障の受益者が国民全体であることを強調するためにオーバーに言ってるんじゃないん?」と思われた方も少なくないのではと思います。

だって、憲法25条のイメージって生活保護とべったりですもんね
でも考えてみてほしいんですが、生活保護って基本的には所得保障ですよね?
ところが僕らがそこそこ幸せに暮らしていくためには所得やサービスを個別的に支給していくだけでは全然不十分であることはちょっと考えれば誰でも分かります。

例えば、公害とかの問題なんていうのはこれを防ぐために、国は個人ばっかみてたって駄目なわけです。

でもって今日紹介する社会保障制度は、全て憲法25条の最低生活保障の理念がその根拠にあると、1950年に社会保障制度審議会によって出された「社会保障制度に関する勧告」にはっきりと明記されています。

http://www.ipss.go.jp/publication/j/shiryou/no.13/data/shiryou/syakaifukushi/1.pdf

1950年とか古っ!!!と思った人もいるかもしれませんが、この時の社会保障制度の「分類」は昨年(平成27年)に発行された高校の現代社会の教科書にもそのまま引き継がれています。

日本の社会保障制度は、日本国憲法第25条の生存権の思想を基本理念としてつくられており、社会保健、公的扶助、社会福祉、公衆衛生の4つがその中心となっている。

『高校現代社会』実数出版,253

ここからも分かるように、最低生活保障のための社会保障制度は生活保護だけじゃないわけです。僕はこのあたりのことは貧困研究者はもと強調して言えばいいのにな~と思ってます。
生活保護の制度上の不備を指摘するのも大事ですけど、そこばっか強調するとまるで生活保護利用者以外は社会保障制度を利用していないような印象を国民に与えかねないな~と。
まあ、さしあたりこの話は置いておきましょう(笑)

さて、人によって最低生活を送れなくなる理由(=つまりリスク要因)やタイミングは異なりますから、ある個人が一生のうちで一度も利用しない制度もあれば頻繁に利用する制度もあるわけですよね。そうした個人差はありますが(というよりそういった個人差があるからこそ)、僕たちの社会は(すでにちょくちょく出ているように)様々な安全網を張り巡らせています。実際、最低生活に関わる法律や制度というのは非常にたくさんあるので、ここでは代表的なものを簡単に確認することとしましょう

安全網①公衆衛生・環境衛生

 社会保障というと、「何らかの生活上のリスクに直面した人を事後的に救済する制度」というイメージがあるかと思いますが、実際には「リスクに直面しないための事前的対策」として以下のようなものが含まれます。

医療 健康増進対策、難病・感染症対策、保健所サービスなど
環境 生活環境整備、公害対策、自然保護など


こうした安全網の特徴はどのようなものでしょうか?後述するように、社会保障制度の多くは「失業者」「障害者」「高齢者」「ひとり親」など、「最低生活を送れなくなるリスクの高い人」や現在特別なニーズを持つ人々をターゲットにしているのに対し、安全網①は文字通り全ての国民の健康の維持・増進を目的とされているという点が特徴だといえるでしょう。
様々な社会制度をどのように分類するかという点に関しては多くの意見があるでしょうが、最適賃金や解雇規制といった労働基準法も「リスクに直面しないための事前的対策」として解釈できるように思います。勿論、労働市場で働いているわけではない人も多いですから、労働基準法は「すべての人々が現在直接的に享受しているサービス」というわけではありませんが、さしあたりここで改めて強調しておきたいことは、

最低生活を保障するための社会保障制度は、「失業者」「高齢者」といった特別なニーズを持つ人々のみを対象にしているわけではなく、就労の有無や老若男女を問わず全ての人を対象にしたものを含んで構成されている
ということです!

安全網②社会福祉 
最低生活を送るためにはそれなりの能力や資源が必要となるわけですが、当然そのような能力には個人差があります。例えば足に障害をもっておられる方はそうでない方に比べると移動するという能力は低いですし、子どもを一人で育てる場合と二人で育てる場合、育児に求められる個人の負担は大きく変わります。当然、そうした個人差を考慮せずに社会保障を構成してしまうと相対的に不利な立場にある方の生活は成り立たなくなってしまう。そこで、児童福祉、母子福祉、身体障害者福祉、知的障害者福祉、老人福祉といったカテゴリーごとに手当の支給や施設、サービスの提供が行われています。
(※なお、戦後の日本の社会福祉理論の構築に大きく貢献した岡村重夫(1982)は、社会福祉社会保障制度の一部とみるこのような整理を厳しく批判しています。この点はまた別のところで詳しく書きます。)

安全網③社会保険 
僕たちが生きる現代社会は様々なリスクに満ち溢れていますよね。突発的な事故に遭うかもしれないし、突然働き先が倒産するかもしれない。そこで予めみんなで保険料を出し合っておき、様々な不測の事態をカバーする(=リスクヘッジ)のが社会保健です。

医療 健康保険、後期高齢者医療制度、船員保健 など
年金 厚生年金、共済年金国民年金
雇用 雇用保健、船員保健
労災 労働者災害補償保険、公務員災害補償保険
介護 介護保険


安全網④公的扶助
さて、ここまで挙げてきた3つの安全網で「すべての国民の最低生活」を保障することができるでしょうか?安全網①はかなり広範な人々の生活水準向上に少なからず役立つでしょうが、私たちが生活に困窮するリスク要因というのは感染症や公害以外に非常に多くのものがありますから、これだけでは不十分です。だからこそ安全網②や③が整備されたとも言えます。とはいえ安全網②は特定のカテゴリーに当てはまる人でないと適用されないので、例えば医学的に障害者認定されていない方や19歳以上の若年失業者などはどれほど生活に困っていても安全網②の対象とはなりません。
それでは安全網③はどうかというと、これは対象者の条件が保険料を支払っていることが前提なので、当然保険料を払えない人は保障の対象外となります。また、仮に保険料を支払っていたとしても、保障のための支給額が十分なものとなるかは個人の掛けた年数や直面した不測の事態の深刻さによっても変わります。

 そこで、あらゆる社会保障制度を活用してもなお生活に困窮される方に対し、その不足分を補う制度として存在するのが公的扶助です。日本ではこの代表的なものが生活保護制度となります。
 そして、この生活保護が今回紹介した他の安全網と一線を画す最も大きな特徴は、生活保護制度の目的が憲法25条の生存権の理念を達成することであると法律で直接的に明記されている点です。

無論、「社会保障制度に関する勧告」を読めば、生活保護以外の安全網もその根拠が憲法25条の生存権にあることが分かります。しかし、実は各安全網を規定する法律の目的に「最低生活」が明記されているわけではなかったりします。例えば、安全網②で取り上げた社会福祉の法律である社会福祉法の目的をみてみると次のようになっています。

社会福祉
(目的)
第一条 この法律は、社会福祉を目的とする事業の全分野における共通的基本事項を定め、社会福祉を目的とする他の法律と相まつて、福祉サービスの利用者の利益の保護及び地域における社会福祉(以下「地域福祉」という。)の推進を図るとともに、社会福祉事業の公明かつ適正な実施の確保及び社会福祉を目的とする事業の健全な発達を図り、もつて社会福祉の増進に資することを目的とする。

社会福祉法


これと生活保護法に明記された生活保護制度の目的を比較してみましょう。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO144.html

第1条 この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。

このように、生活保護は他の社会保障制度のなかでも、ことさら憲法25条の生存権思想、最低生活の概念を反映した制度であることが強調されていることが分かります。

それでは、誰が生活保護を利用できるのでしょうか?

第2条 すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる。
第4条 保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。


ここで、「その他あらゆるもの」の例として健康保険や厚生年金など(=安全網②)が挙げられています 

つまり、生活保護こそ、安全網①~③をもってしても最低生活を営むことができない人を補足する最後のセーフティーネットとして極めて重要な意味を持っているということです
逆に言えば、だからこそ生活保護社会保障制度のなかで憲法25条の理念を反映していることを最も強く強調されているということでしょう。

更に強調しておきたいことは、要件を満たしさえすれば性別、年齢、労働能力の有無、生活態度に関わらず「無差別平等」に保障されるべきだとされていることです。

それでは、「要件」とは一体なんなのでしょうか?第4条から、①生活に困窮していること、②資産や能力を活用していることを公的に認められるか、という点がポイントになることが分かります。とはいえ、生活保護の要件については結構複雑なので、また別の機会に書きたいと思います。

さしあたり今日のポイントは……
◎僕たちの最低生活を保障するために、日本社会は様々な安全網をはりめぐらしており、この恩恵を受けていない人はいない。
◎なかでも生活保護制度は、最低生活保障の理念を反映することが目的であると明記された最後のセーフティーネットという極めて重要な意味を持っており、一定の要件を満たせば誰でも無差別平等に利用することができる!

……ということを知っておいて欲しいと思います。

よろしく、どーぞ。